ななめのせかい

日常をあるく

透明ガラスに映るちいちゃな手形

子供は夏、いつでもプールに入りたがる。

これは子供ができて初めて知ったことだ。

(個人差はあると思うけど)

 

娘はアレルギー体質なので、普段はアレルギー反応が出ないよう食事や触れるものに気をつけている。ところが、、今日の昼、こちらが想定していないことで肌からアレルゲンを吸収したらしく、症状が出てしまった。幸い症状は重くなかったので、原因になった物質を除去しようと、湯船でシャワーを浴びせて拭き取った。

 

どうやら、それがとても楽しかったようで、症状が落ち着いて買い物に行ったあと、夕方帰宅したら「お風呂、お水でちゃぷちゃぷする!」と言い出した。

 

夕方でもうちょっと涼しすぎやしないかと思ったけど、今日はアレルギーの症状も出てしまったし、その後も買い物に付き合ってくれたので、要望にはお応えしたい。というわけで、湯沸かしをかなり低めの37度に設定して湯を入れ始めた。湯が沸くまでの間に軽く夕飯を済ませて、スタンバイOK!

 

いつものお風呂は「ママがいい!」と叫ぶのだけれど、

プール様式のお風呂は「パパと入る!」と言う。

 

普段はなぜかパパは一緒に入浴することを断られる場合もあるので、大喜びで一緒にプール風呂に入る夫。

 

時刻は18時ちょっと過ぎで、そんな時間にひとりで過ごせるのは有り難い。食事の片付けをして、ソファに寝そべって、昨日買った本を読むことにした。(ブレイディみかこさんの、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』。英国人と結婚し英国に住む著者と、地域の最底辺中学校に通う中学生の息子さんの、ノンフィクション・エッセイ。まだ三分の一ほどだけど、とても面白い。)

 

我が家はソファの横が大きい窓になっているんだけど、横になって本を読み始めて、ふと窓に目をやると、ソファからちょっと上あたりに、曇ったような模様が見えた。楕円が数個点々と連なっていたので、気になって近づいて目を凝らしたら、指紋が見えた。娘の手の跡だ。

角度を変えてよく見るとちょっとホラーなんじゃないかばりに、手の跡が見える。

ソファに立ってジャンプをするのが好きな娘。

遠くに見える海を、双眼鏡で眺めるのが好きな娘。

ここから手をついて、何かを見ていたのかな、と考えた。

 

なんだか不思議なもので、3年と少し前にはこの世に存在していなかったはずなのに、今は確かにその存在の足跡が、家にも、他の場所にも、たくさんあるなあ、と思いはじめた。

 

ビジネス本や雑貨を並べていたIKEAの棚は今はおもちゃと絵本をぎっしり詰めても足りないくらいだし(無造作に横にはみ出ている)、部屋に写真を飾ったこともなかったけど、今は娘が生まれた時からのお気に入りの写真が壁に整列している。

 

仕事をしている時間はもちろん顔を合わせていないけれど、家にいるときはずっと私にひっついて、ゴミを捨てに行くにも、どこに行くにもついてくる。どんどんどんどん、大きくなって、昨日できなかったことが今日できて、少しずつ、私の手から離れていっている。

 

ちいさな曇った手形は拭き取ったら消えるだろうし、窓からしたらただの汚れだし消したほうがいいんだけれど、何てことないこの手形すらも、いつか、ちいちゃかった娘をなつかしく思うものになるのかもしれないなぁ、と薄ぼんやり考えていた。

そしたら、何だか少し目の奥にこみあげるものがあった。

 

二度と戻らない毎日。残してくれる足跡は大事に、でも、その足跡だけを見て、大事な今を見失わないように。手を離した未来をしっかり応援できる存在でありたい。

 

…などと思って窓の汚れを拭いていたら、「ママ出たよー!」の声が聞こえてきて、結局本はあまり読めずじまいでした。